沼へ

「金属の文字を組んで、インクをつけて刷るのだ!!」
私の活版印刷に関する知識は大変乏しい。

 

大日本印刷(DNP)・久喜工場「活版倉庫」見学ツアー&ミニ・ワークショップ
あまりの人気に即日満席になってしまった講座への参加が叶いました!
ギリギリまでスケジュールを空けてキャンセル待ちをしていた甲斐がありました。
デジタル系の印刷が主流になった今、ふと、活版時代の書籍を開くと独特の風合いに気づかされます。
そこにあるのは印刷された文字のわずかな凹凸やかすれなど、独特の人間味や温かさ。
昨今、活版印刷が再び注目されているというのは以前発売した学研の「大人の科学マガジン 小さな活版印刷機」が即完したことでも明らかです。

 

 

13:30に久喜駅JR改札前に集合、送迎バスで20分ほど揺られて印刷工場まで。
こちらの工場では主に雑誌の印刷をしているそうですが、活版印刷に関わるものの保管もしています。
現在、市ヶ谷のDNP跡地は公園が出来る予定で現在造成中。いずれはそちらに建てられる建物に一部、移されるようですね。

 

参加の19名はワークショップと見学の2チームに分かれます。
私は先にワークショップを行うチームに。
今回は全てひらがなで15文字程度の文字までのものを印刷するということで、棚の活字から必要な文字を抜き取って木枠に並べます。
それを、活版印刷工房「ファースト・ユニバーサル・プレス」の方にお渡しすると印刷機に活字を仕込んで刷り上げていただける。
印刷の台を緩めては各々が選んだ文字をセッティングしていくので、全員が終わるまでには1時間ほどかかります。
その間は、部屋にある機械や活字、写真の版などの説明をしていただいたり、参加者同士でお話をしたり。
試し刷りではまだ活字にインクが乗っておらず、少しかすれているのですが、だんだん、「ノッテきたぜぃ!」という感じの印刷具合に。
レトロ感、ありますねぇ。
活版印刷が盛んだった時代、芸者が行き交う花街神楽坂に集まる文士の姿が頭をよぎりました。

 

 

続いては見学。
この見学の良いところは、稼働していた当時のままの空気に触れられること。
公開・展示用の場所では機械がずらっと並んでいるなんて迫力は出ないですから、それだけで圧倒されます。
さて。
活版印刷の工程をざっくりとご説明します。
って、すみません。見学で初めて知ったのに大変おこがましい。

①作字する…活字の元になる字を描く

②母型を作る…活字の型を作る

③活字を鋳造する…母型に鉛を溶かし入れ活字を鋳造する

④文選する…棚に収められた活字から原稿に必要な字を選んで箱に抜き出す

⑤直彫り…文選するときに母型がない字がある場合、職人が直接金属棒に彫り出す

⑥植字する…文選された文字に加え、罫線や空白なども含め、指定されたページを組む

⑦ゲラ刷り…植字で出来上がったページを試し刷りし、印刷所内でのチェック後、編集者に戻し赤入れする

⑧差し替え…赤字に従ってピンセットを使って間違えた文字などを直す。最終的(責了したら)写真やイラストなどを指定の位置に配置する

⑨紙型を作る…特殊な紙に活字を押し移し、ページ型の型を作る。これに鉛(後に樹脂)を流し込み、輪転機にかけられる板状の型をつくる

こんな過程があったんですねぇ。
今までの私ときたら、文選からゲラ刷りの部分しか想像できていませんでした。
これらの工程をすべて説明していただきながら見学をしていきます。
どの説明もすべて濃厚で、挙げたらきりがないのですが、日本の活字は基本的に使用後に棚に戻さず溶かされる、というのが驚きでした。
漢字・平仮名・カタカナの常用という膨大な種類の文字を駆使する言語なわけで、いちいち戻している方が時間がかかるということですね。
アルファベットなら字数が決まっているのでわずかな量とスペースで済むというのに、日本の文選者は棚にある3000字の活字の配置を覚え、2~3秒に一文字を抜き出すわけです。
それから、直彫りの職人さんの技術。
3.5mmの角棒に、何画もある漢字を逆向きに直に彫り出す映像を見てもなお、信じられない。
本当に、全行程衝撃的で、すべてのエピソードを皆さんにお伝えしたいのですが、あまりにも膨大過ぎて。
講座にご参加の上、是非、直接お話を聞いていただきたいと思います。
活版印刷とは想像以上にものすごい文化でした。

帰りの送迎バスを待つ間の雑談で、写植印刷などのお話も伺ったのですが、こちらもまた心を惹きつけてやまない世界。
参加者の熱気が溢れる中、見学の引率担当者の方がおっしゃった言葉が忘れられません。

 

「ようこそ、沼へ。」

 

活版印刷沼。
本当に、嗚呼、本当に深い沼でした。
濃厚な一日をありがとうございました。
そして、喜んで次の沼「写植沼」に引きずり込まれる日はきっとすぐそこに。

 

 

追伸
お土産に活字をいただきました。

これは外堀通りにあるDNPプラザの内装用に鋳造したものだそうです。
素敵カフェも併設されているこちら、是非お立ち寄りください。